ハチクマの渡り
五島市福江島でのハチクマの渡りが確認されて30年、その飛行経路がわかってきました。ハチクマは、 タカ科の猛禽類。 両翼を広げると長さが1.3メートルになる大型のタカです。 ハチの幼虫を食べる習性があること、 仲間のクマタカに似ていることが「ハチクマ」の名前の由来といわれています。
ハチクマは、5月ごろ繁殖のため日本に飛来し、 夏に本州などで繁殖。 秋になると越冬のため東南アジア方面に向かいます。 その数は、 約1万羽。 日本に飛来したほとんどのハチクマが、 長崎県五島市福江島の大瀬崎を経て約600キロ離れた大陸に渡り、 そこから南下します。 大瀬崎から飛び立ち、 2~3日で大陸に到達するそうです。
ハチクマの渡りは、 例年9月中旬ごろから本格化。 月末ごろピークを迎え、 10月中旬まで続きます。 天候によって左右されますが、 早朝6時ごろ~9時までが観測の最適時。福岡市油山の中腹にある片江展望台は、ハチクマの渡りが観察できる日本有数のスポットです。
ハチクマは日本で渡りをするタカ類の代表種だ。長野県北部の白樺峠、愛知県渥美半島の伊良湖岬、福岡県福岡市油山、長崎県五島市福江島大瀬崎などでは、秋、多数のハチクマが上昇気流に乗って鷹柱をなし、南へと移動して行く様子を見ることができる。なんとも壮観な光景であり、秋の風物詩の一つ。
東アジアのすべての国をめぐるハチクマの旅
鳥に装着した送信機からの電波を気象衛星のノアで捉え、ハチクマの追跡を行った。本州の中~北部で繁殖するハチクマは、9月中下旬から10月上旬に西方に進み、九州へと向かう。日本最西端の五島列島などを飛び立ったのち、東シナ海約700kmの海上を越えて中国の長江河口付近に入る。その後、中国のやや内陸部を南下し、インドシナ半島、マレー半島を経由してスマトラに至る。そこから経路が二つに分かれる。一方の鳥たちは、90度方向転換して東北方向へと進み、ボルネオやフィリピンに到達する。もう一方の鳥たちは、東へと進み、インドネシアのジャワ島、あるいは小スンダ列島にまで到達して渡りを終える。総延長移動距離、1万キロ前後、全体として、大きなCの字を描く迂回経路だ。越冬地への到着時期は、11月から12月。
ボルネオ・南カリマンタンのハチクマ越冬地。
春には、秋とは大きく異なる経路をたどる。渡りは2月の中下旬から3月に始まる。ボルネオやフィリピンで越冬した個体も、ジャワや小スンダで冬を越した個体も、マレー半島の北部までは秋の経路を逆戻りする。そこから先、一部の鳥は、90度方向転換して東に進み、カンボジア方面へと向かったのち、再び90度方向転換して北進する。ほかの鳥たちは、北上してミャンマーから中国南部へと入る。その先は、カンボジア方面に行った鳥たちも合流するような形で中国の内陸部を北上し、朝鮮半島の北部に至る。日本には戻ってこないように見えるが、そこでなんとすべての鳥が90度方向転換後、朝鮮半島を南下。朝鮮海峡を越えて九州に入り、さらに再び90度方向転換して東進し、繁殖地の長野県や山形県、青森県などに戻る。総延長移動距離1万数千キロ、秋より少し長い。日本の繁殖地に到達するのは、5月の中下旬。戻る先は、前年の繁殖地とまったく、あるいはほぼ同じ。春秋合わせて2万数千キロ、季節によって渡る経路は大きく異なるのに、戻る先は同じなのだ。想像もつかないすごい旅を、ハチクマたちは毎年行っているのである。
おもしろいことに、春の渡りの際にはすべての個体が、東南アジアから中国南部のどこかの地域で、1週間から1か月ほどの長期滞在をする。少し長くなる春の旅に備えて、滞在地でハチをたらふく食べているのかもしれない。秋と春の渡りを通じて、どの個体も東アジアの大部分の国を一つずつめぐっている。集団全体としては、東アジアのすべての国を一つ一つめぐっていることになる。
若鳥が戻ってこない!?
成鳥については多数個体を対象に衛星追跡できているが、当年生まれの若鳥については、これまで1羽しか追跡できていない。長野県の白樺峠で久野公啓さんたちによって捕獲、放鳥された鳥だ。この若鳥は、成鳥の渡りとは大きく異なる様子を見せた。
2003年の初秋。成鳥より一週間ほど遅れて9月29日に長野を出発。本州を西進したのち、淡路島経由で四国に入る。その後、九州から東シナ海を南西へと向かって中国福建省の東岸へ。沿岸部を南下し、ベトナム、カンボジア、マレー半島中部へと進む。続いて同半島を南下し、スマトラに到達したのち、冬期間を通してスマトラとマレー半島との間を何度か複雑に周回。4月1日以降はマレー半島中部にとどまり,結局、日本には戻ってこなかった。
一羽だけの追跡結果だが、繁殖地での若鳥の観察割合の低さやヨーロッパハチクマでの調査結果などからして、若鳥は越冬地にとどまることが多いようだ。一年目は繁殖に加わらないので、無理して長い旅をして繁殖地に戻ってくることはしないのだろう。
ハチクマの渡り
五島市福江島でのハチクマの渡りが確認されて30年、その飛行経路がわかってきました。ハチクマは、 タカ科の猛禽類。 両翼を広げると長さが1.3メートルになる大型のタカです。 ハチの幼虫を食べる習性があること、 仲間のクマタカに似ていることが「ハチクマ」の名前の由来といわれています。
ハチクマは、5月ごろ繁殖のため日本に飛来し、 夏に本州などで繁殖。 秋になると越冬のため東南アジア方面に向かいます。 その数は、 約1万羽。 日本に飛来したほとんどのハチクマが、 長崎県五島市福江島の大瀬崎を経て約600キロ離れた大陸に渡り、 そこから南下します。 大瀬崎から飛び立ち、 2~3日で大陸に到達するそうです。
ハチクマの渡りは、 例年9月中旬ごろから本格化。 月末ごろピークを迎え、 10月中旬まで続きます。 天候によって左右されますが、 早朝6時ごろ~9時までが観測の最適時。福岡市油山の中腹にある片江展望台は、ハチクマの渡りが観察できる日本有数のスポットです。
ハチクマは日本で渡りをするタカ類の代表種だ。長野県北部の白樺峠、愛知県渥美半島の伊良湖岬、福岡県福岡市油山、長崎県五島市福江島大瀬崎などでは、秋、多数のハチクマが上昇気流に乗って鷹柱をなし、南へと移動して行く様子を見ることができる。なんとも壮観な光景であり、秋の風物詩の一つ。
東アジアのすべての国をめぐるハチクマの旅
鳥に装着した送信機からの電波を気象衛星のノアで捉え、ハチクマの追跡を行った。本州の中~北部で繁殖するハチクマは、9月中下旬から10月上旬に西方に進み、九州へと向かう。日本最西端の五島列島などを飛び立ったのち、東シナ海約700kmの海上を越えて中国の長江河口付近に入る。その後、中国のやや内陸部を南下し、インドシナ半島、マレー半島を経由してスマトラに至る。そこから経路が二つに分かれる。一方の鳥たちは、90度方向転換して東北方向へと進み、ボルネオやフィリピンに到達する。もう一方の鳥たちは、東へと進み、インドネシアのジャワ島、あるいは小スンダ列島にまで到達して渡りを終える。総延長移動距離、1万キロ前後、全体として、大きなCの字を描く迂回経路だ。越冬地への到着時期は、11月から12月。
ボルネオ・南カリマンタンのハチクマ越冬地。
春には、秋とは大きく異なる経路をたどる。渡りは2月の中下旬から3月に始まる。ボルネオやフィリピンで越冬した個体も、ジャワや小スンダで冬を越した個体も、マレー半島の北部までは秋の経路を逆戻りする。そこから先、一部の鳥は、90度方向転換して東に進み、カンボジア方面へと向かったのち、再び90度方向転換して北進する。ほかの鳥たちは、北上してミャンマーから中国南部へと入る。その先は、カンボジア方面に行った鳥たちも合流するような形で中国の内陸部を北上し、朝鮮半島の北部に至る。日本には戻ってこないように見えるが、そこでなんとすべての鳥が90度方向転換後、朝鮮半島を南下。朝鮮海峡を越えて九州に入り、さらに再び90度方向転換して東進し、繁殖地の長野県や山形県、青森県などに戻る。総延長移動距離1万数千キロ、秋より少し長い。日本の繁殖地に到達するのは、5月の中下旬。戻る先は、前年の繁殖地とまったく、あるいはほぼ同じ。春秋合わせて2万数千キロ、季節によって渡る経路は大きく異なるのに、戻る先は同じなのだ。想像もつかないすごい旅を、ハチクマたちは毎年行っているのである。
おもしろいことに、春の渡りの際にはすべての個体が、東南アジアから中国南部のどこかの地域で、1週間から1か月ほどの長期滞在をする。少し長くなる春の旅に備えて、滞在地でハチをたらふく食べているのかもしれない。秋と春の渡りを通じて、どの個体も東アジアの大部分の国を一つずつめぐっている。集団全体としては、東アジアのすべての国を一つ一つめぐっていることになる。
若鳥が戻ってこない!?
成鳥については多数個体を対象に衛星追跡できているが、当年生まれの若鳥については、これまで1羽しか追跡できていない。長野県の白樺峠で久野公啓さんたちによって捕獲、放鳥された鳥だ。この若鳥は、成鳥の渡りとは大きく異なる様子を見せた。
2003年の初秋。成鳥より一週間ほど遅れて9月29日に長野を出発。本州を西進したのち、淡路島経由で四国に入る。その後、九州から東シナ海を南西へと向かって中国福建省の東岸へ。沿岸部を南下し、ベトナム、カンボジア、マレー半島中部へと進む。続いて同半島を南下し、スマトラに到達したのち、冬期間を通してスマトラとマレー半島との間を何度か複雑に周回。4月1日以降はマレー半島中部にとどまり,結局、日本には戻ってこなかった。
一羽だけの追跡結果だが、繁殖地での若鳥の観察割合の低さやヨーロッパハチクマでの調査結果などからして、若鳥は越冬地にとどまることが多いようだ。一年目は繁殖に加わらないので、無理して長い旅をして繁殖地に戻ってくることはしないのだろう。